大阪地方裁判所 昭和59年(わ)609号 判決 1984年9月11日
本店所在地
大阪市港区築港四丁目一〇番二五号
松田工業株式会社
右代表者
中島四郎
本籍
大阪市港区二条通四丁目四四番地
住居
大阪市港区築港二丁目一番八号
会社役員
中島四郎
大正一七年七月七日生
右松田工業株式会社に対する法人税法違反、右中島四郎に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官宇田川力雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人松田工業株式会社を罰金一六〇〇万円に、被告人中島四郎を懲役一年二月及び罰金一六〇〇万円に処する。
被告人中島四郎においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人中島四郎に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人松田工業株式会社(以下「被告会社」という)は、大阪市港区築港四丁目一〇番二五号に本店を置き、各種工場構内作業請負業を営んでいたものであり、被告人中島四郎は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人中島四郎は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の人件費を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿したうえ、
一 被告会社の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における所得金額が五四三五万八一三一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年六月一日、同市同区磯路三丁目二〇番一一号所在の所轄港税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が一二〇万九四七八円で、これに対する法人税額が二九万〇六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同事業年度における正規の法人税額二〇八五万五三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二〇五六万四七〇〇円を免れ
二 被告会社の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度における所得金額が六五六七万三一〇六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五七年五月三一日、前記港税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が五三一万七五五六円で、これに対する法人税額が一五七万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同事業年度における正規の法人税額二六六〇万二一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二五〇二万七六〇〇円を免れ
三 被告会社の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度における所得金額が五五五〇万一八〇〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五八年五月三一日、前記港税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が一七一四万四二七〇円で、これに対する法人税額が六一九万一二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同事業年度における正規の法人税額二二三〇万一二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一六一一万〇〇〇〇円を免れ
第二 被告人中島四郎は、大阪市港区築港四丁目一〇番二五号に事務所を置き、松田作業の名称で工場構内作業請負業を営むなどしていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収支に関する記帳を行わないで所得の一部を秘匿したうえ、
一 昭和五五年分の所得金額が五五六九万一三八七円(別紙(五)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、昭和五六年三月一二日、前記港税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の所得金額が一九三三万七九四四円で、これに対する所得税額が五五七万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二六九九万二〇〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)と右申告税額との差額二一四二万〇〇〇〇円を免れ
二 昭和五六年分の所得金額が六六一六万九九六六円(別紙(六)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、昭和五七年三月一五日、前記港税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の所得金額三〇〇〇万五六一五円で、これに対する所得税額が一一二八万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三三八四万三六〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)と右申告税額との差額二二五五万九六〇〇円を免れ
三 昭和五七年分の所得金額が七六五二万〇四一二円(別紙(七)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記港税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の所得金額が三九一七万三二一一円で、これに対する所得税額が一六四四万〇一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四〇五七万七六〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)と右申告税額との差額二四一三万七五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告会社代表者兼被告人中島四郎の当公判廷における供述
一 被告人中島四郎の検察官に対する供述調書
一 被告人中島四郎に対する収税官吏の昭和五八年七月一九日付、同年八月一九日付、同年一〇月二八日付、同年一一月四日付、同月二二日付(大阪国税局((査察))記録第一四―八号、以下号数のみで示す。)及び同年一二月六日付(第一四―一〇号)各質問てん末書
一 玉井義宏及び中島圭三の検察官に対する各供述調書
一 中島圭三に対する収税官吏の質問てん末書一〇通
一 収税官吏作成の昭和五八年一一月一六日付査察官調書
判示第一の一ないし三の各事実について
一 被告人中島四郎に対する収税官吏の昭和五八年九月六日付、同月三〇日付、同年一一月二二日付(第一四―九号)、同年一二月六日付(第一五―一号)、同月二六日付(第一五―二号)及び昭和五九年一月一〇日付各質問てん末書
一 収税官吏作成の昭和五八年一一月二四日付、同年一二月四日付及び同月一四日付(菊地康雄作成のもの)各査察官調書
一 港税務署長作成の証明書三通(いずれも被告会社の法人税確定申告書写し添付のもの)
一 収税官吏作成の脱税額計算書三通(いずれも被告会社に関するもの)
判示第二の一ないし三の各事実について
一 被告人中島四郎に対する収税官吏の昭和五八年七月二九日付、同年一二月一〇日付(二通)、同月一二日付、同月一四日付(二通)及び同月二六日付(二通、第一四―一五号及び第一四―一六号)各質問てん末書
一 収税官吏作成の昭和五八年一〇月五日付、同月六日付、同月八日付(二通)、同年一一月三〇日付、同年一二月六日付、同月七日付、同月八日付(二通)、同月九日付(二通)、同月一〇日付、同月一二日付(二通)、同月一四日付(永尾昌美作成のもの)、同月一五日付(三通)、同月一七日付、同月一九日付、同月二一日付、同月二二日付、昭和五九年一月九日付及び同月一四日付各査察官調書
一 港税務署長作成の証明書三通(いずれも被告人中島四郎作成の所得税確定申告書写し添付のもの)
一 港税務署長作成の脱税額計算書三通(いずれも被告人中島四郎に関するもの)
なお、当裁判所は、検察官主張の被告会社の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における受取利息一一四円及び昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度における受取利息八八円については、被告会社において秘匿しようとする意思があったとは認められなかったので、これを除外して判示第一の一、二のとおり被告会社の各実際所得金額を認定した。その理由は次のとおりである。すなわち、収税官吏作成の昭和五八年一一月一〇日付査察官調書及び被告人に対する収税官吏の昭和五八年一一月二二日付(第一四―八号)質問てん末書によれば、検察官主張の右各受取利息は、被告会社の三和銀行築港支店の普通預金(口座番号一一六五八四)の利息としてそれぞれの事業年度内に発生し、右預金口座に入金されているものであるところ、右預金口座は、昭和五四年一二月三一日現在で残高四六四一円であり、その後右利息入金のほかは、昭和五七年一一月二七日まで全く入出金がなかったこと、及び被告会社においては右各事業年度におけるその他の預金利息についてはすべて正当に公表し、申告していることが認められ、右事実からすると、被告会社又は被告会社代表者においては、検察官主張の各受取利息については、いずれもその発生の事実を認識しなかったものであり、これらについて秘匿の意思はなかったと認めたものである。
(法令の適用)
被告人中島四郎の判示第一の一、二、三の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当し、判示第二の一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するところ、右は犯罪後の法令により刑の変更があつたときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法によることとし、判示第二の二、三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、判示第一の一、二、三の各罪についてはいずれもその所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の一、二、三の各罪についてはいずれもその所定の懲役と罰金を併科し、かつ、情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示第二の一、二、三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人中島四郎を懲役一年二月及び罰金一六〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人中島四郎の判示第一の一、二、三の各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから被告人会社については、法人税法一六四条一項により判示第一の一、二、三の各所為につき同じく法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、右罪につきいずれも情状により法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告会社を罰金一六〇〇万円に処することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 野間洋之助)
別紙(一)
修正損益計算書
松田工業株式会社
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
松田工業株式会社
自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
松田工業株式会社
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>
別紙(四)
税額計算書
松田工業株式会社
<省略>
別紙(五)
総所得金額計算書
中島四郎
自 昭和55年1月1日
至 昭和55年12月31日
<省略>
別紙(六)
総所得金額計算書
中島四郎
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>
別紙(七)
総所得金額計算書
中島四郎
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
修正貸借対照表
中島四郎
昭和55年12月31日現在
<省略>
修正貸借対照表
中島四郎
昭和56年12月31日現在
<省略>
修正貸借対照表
中島四郎
昭和57年12月31日現在
<省略>
別紙(八)
税額計算書
中島四郎
<省略>